勇気の旅人

4/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
どのくらいたったのか、意識を現実に戻して見ますと、やはり空は曇ったままで、こんなどうしようもない考え事をしているところで、現実は変わりはしないのだなぁと半ば諦めながら、痛くなった首をもとの位置に戻していると、後ろの浴室からガラガラっと音がしました。 一人の世界を壊されるのはやけに癪に思われ、半ば睨みを聞かせながら後ろを振り向いて見ますと、そこには中年の男が、髭を摩りながら現れました。 一度も会ったことがないのに、何故だか彼が「旅人」であることが容易に想像できたのは、彼の風貌からでしょうか。 モジャモジャの頭に無精髭を蓄え、それでいて体は引き締まっていました。 それに、これはかなりステレオティピカルな気もしますが、肩にかけたタオルを右手で掴んでいるその出で立ちは、荒々しさと清楚さの両方を兼ね備えているように思われるのです。 「おおっ、これは絶景」 そういうと男は高らかに笑いながら湯船に入ってきました。 スペースを空けるように僕は端っこの方へよりますと、あろうことか、男も僕の方へ詰めかけてきました。 「少年よ、一人か?」 なおも笑いながら、その男はタオルを頭に乗っけています。 「ええ、ひとり旅です」 可笑しな人だと思いながら、とりあえず当り障りのない返事をしました。 「そうか、俗世間が嫌になったか?」 「ええ、まあそんな感じですよ」 苦笑しながら、僕は人見知りではないので、この男についても聞いてみることにしました。 「あなたも、一人旅を?」     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!