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どのくらいたったのか、意識を現実に戻して見ますと、やはり空は曇ったままで、こんなどうしようもない考え事をしているところで、現実は変わりはしないのだなぁと半ば諦めながら、痛くなった首をもとの位置に戻していると、後ろの浴室からガラガラっと音がしました。
一人の世界を壊されるのはやけに癪に思われ、半ば睨みを聞かせながら後ろを振り向いて見ますと、そこには中年の男が、髭を摩りながら現れました。
一度も会ったことがないのに、何故だか彼が「旅人」であることが容易に想像できたのは、彼の風貌からでしょうか。
モジャモジャの頭に無精髭を蓄え、それでいて体は引き締まっていました。
それに、これはかなりステレオティピカルな気もしますが、肩にかけたタオルを右手で掴んでいるその出で立ちは、荒々しさと清楚さの両方を兼ね備えているように思われるのです。
「おおっ、これは絶景」
そういうと男は高らかに笑いながら湯船に入ってきました。
スペースを空けるように僕は端っこの方へよりますと、あろうことか、男も僕の方へ詰めかけてきました。
「少年よ、一人か?」
なおも笑いながら、その男はタオルを頭に乗っけています。
「ええ、ひとり旅です」
可笑しな人だと思いながら、とりあえず当り障りのない返事をしました。
「そうか、俗世間が嫌になったか?」
「ええ、まあそんな感じですよ」
苦笑しながら、僕は人見知りではないので、この男についても聞いてみることにしました。
「あなたも、一人旅を?」
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