0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
都会でなんとかやっていけたのだって、否が応でも知り合いなどと言葉を交わしたり、行事に参加していからであり、いざ頼れるものが何一つないこの地に来てしまいますと、孤独が一層酷く感じられるです。
「それはないな、新しい地は頼れるものがないからこそ必死になる、だから面白いものと出会えるし、安いプライドだって捨てされる」
けれどそんな僕の思考とは裏腹に、男は豪快に笑いながら、孤独を肯定的に捉えるのでした。
さらに男はこう続けます。
「自分の馴染めない世界なんて幾らだってある、でも逆にいえば馴染める世界だっていくらでもあるんだ。世界は文字通り広いのに、なんでそんな狭いところでつまらないプレッシャーに縛られ続けなくちゃあいけない?どだい、そう考えると、人生に悩むことなんて馬鹿らしいだろう」
ああそうか、この人はただの旅人じゃあない。心の底から旅人なのだ。
いつか読んだ本の中で、僕は「吟遊詩人」という職業に憧れた。
詩を歌い、世界中を放浪する。
それは別段詩が好きというわけでも旅が好きなわけでもなく、何者にも縛られないその自由を謳歌する姿に憧れたのだ。
忠誠を誓う女王も、祈りを捧げる神も、もういない。
この「自由」な世界で本当に自由になるには、全ての安らぎから、全ての平穏から、自らを遠ざけなければならない。
この人は、野武士はそれをやってのけたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!