700人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
「……拒まないのですね、姫」
「ビセンテさんはこんな事、本気でしたりはしません」
「貴方に私の事が分かりますか?」
「……信じています」
その言葉に、ビセンテは眉根を上げて、そっと体を離してしまう。そしてテーブルの上の本をそっと、棚へと戻した。
「悪ふざけが過ぎましたね。すみません、辱めるような事をして」
「いえ……」
「兄上に言ってもいいのですよ?」
「言いません」
「……不思議な人ですね。お人好しですよ」
言いながら、ふとビセンテは動きを止める。そして、ついでのように口を開いた。
「あの物語の二人、王子を追って女性は旅立ち、二人は愛を誓い合い、味方を得て祖国を取り戻すのです」
「え?」
「その後の苦難も乗り越え、愛を貫いた二人は幸せに暮らす。ね? つまらないでしょ?」
自嘲なのか、苦笑なのか。
そんな境の分からない笑みを浮かべるビセンテを、起き上がり服を整えた白雪姫は首を横に振り、否定した。
「素敵なお話だと思います」
少し俯いたビセンテは、それ以上何かを言わなかった。
けれどすれ違いざま、ポンと頭を撫でていく手はとても優しく思えた。
最初のコメントを投稿しよう!