8話 物語の世界

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「……拒まないのですね、姫」 「ビセンテさんはこんな事、本気でしたりはしません」 「貴方に私の事が分かりますか?」 「……信じています」  その言葉に、ビセンテは眉根を上げて、そっと体を離してしまう。そしてテーブルの上の本をそっと、棚へと戻した。 「悪ふざけが過ぎましたね。すみません、辱めるような事をして」 「いえ……」 「兄上に言ってもいいのですよ?」 「言いません」 「……不思議な人ですね。お人好しですよ」  言いながら、ふとビセンテは動きを止める。そして、ついでのように口を開いた。 「あの物語の二人、王子を追って女性は旅立ち、二人は愛を誓い合い、味方を得て祖国を取り戻すのです」 「え?」 「その後の苦難も乗り越え、愛を貫いた二人は幸せに暮らす。ね? つまらないでしょ?」  自嘲なのか、苦笑なのか。  そんな境の分からない笑みを浮かべるビセンテを、起き上がり服を整えた白雪姫は首を横に振り、否定した。 「素敵なお話だと思います」  少し俯いたビセンテは、それ以上何かを言わなかった。  けれどすれ違いざま、ポンと頭を撫でていく手はとても優しく思えた。
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