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我慢していた涙が一つこぼれた。恨んだり、憎んだり、悲観しても進めない。生きていればきっといい事がある。そう、思って城の中でも暮らしていたのに。
不意に、ぽんぽんと頭を撫でる大きな手があり、振り仰いだ。
その先でアベルが、真っ直ぐに見つめながら撫でてくれていた。
「俺達も故郷を追われた身だ、分からないではない」
「そう、なのですか?」
「あぁ。兄弟七人、この森でひっそりと生活しているが国には帰れないままだ。もう、帰るつもりもないんだがな」
「……お辛い、ですよね」
「わりと気に入っているぞ。気を使う事もなく、気ままだ。不運なことだが、結果的には悪くなかった」
言葉通りカラッとした口調のアベルに白雪姫は驚き、次には気が抜けたように笑った。
「それなら、良かった」
どう言っていいか分からないが、この言葉が出た。それはまるで、自分にも言い聞かせているようだった。
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