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昔々ある王国に、一人の姫がおりました。
長い黒髪は黒檀のように艶やかで、唇はふっくらと愛らしい紅色、肌は新雪のように柔らかく白い。
そのお姫様は国民にも慕われ、『白雪姫』と呼ばれました。
――――――――
「はぁ……はぁ……」
深い森の中を、一人の少女が走る。
長いドレスを纏い、艶やかな黒髪を結った彼女はとても森には似つかわしくない装いで、何度も転びそうになりながらも足を前へと動かす。
彼女から付かず離れず後ろから、一人の男が追いかけてきていた。手には猟銃を持ち、更に森の奥へと追い込むように。
彼女には分かっていた。この男が誰の差し金で動いているのか。
「あ!」
太く張り出した木の根に足を取られ、彼女は前のめりに大きく転んだ。
足首の辺りがズキズキする。手の平も盛大に擦りむき、じわっと血が滲んだ。
ザリッという土を踏む音がして、彼女に影が差す。地に手をついて転んだまま身を捻れば、猟銃を構えた男が陰鬱な目で見下ろしていた。
「可哀想だが、仕方がない」
男の言葉にゾクリと背が震える。
もう助からないんだ。そう、覚悟した。
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