8話 物語の世界

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「恋など一時。新たな出会いで、忘れるものです」 「消えない想いはあると思います。少なくともこの物語の二人は、とても強い絆で結ばれています。時が過ぎてもきっと、例え新しい誰かがいても、完全に忘れてしまう事は出来ないと思います」  言い募れば、ビセンテは少し苦しそうな顔をする。綺麗な眉根が僅かに寄った。 「拘りますね。経験がおありですか?」 「いいえ。でも、信じたいと思うのです」 「信じたい……ですか」  青い瞳が閉じられる。本がパタンと閉じられて、テーブルへと置かれる。その直後、白雪姫の視界はビセンテではなく天井を映していた。上半身をソファーに倒された白雪姫の前には、優美なままのビセンテがいる。 「試してみましょうか?」 「え?」 「そのように美しい愛が、産まれるのかどうか」 「それはどういうっ!」  唇が首筋に触れて、ビクリと震える。ゾクゾクとした感覚が肌の上を走る。  逃げなければ。思っているのに、体は動かない。  これでもまだ、信じている。ビセンテは、こんな事をしないと。
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