8話 物語の世界

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 その夜、白雪姫は眠れなかった。日中のビセンテが頭から離れない。寂しそうで、泣きそうな顔をしていたように思う。  彼は信じていないのだろうか。純粋な愛や、絆というものを。  でも、そうは思えない。もしもそうならどうして、彼はあの本を読んでいたのだろう。内容はもう、知っているのに。  立ち上がり、落ち着かなく部屋を出た。とての眠れる気配がしなくて、行くあてもなく彷徨っている。自然と、談話室の前で足は止まった。  この時間に、誰もいるはずはない。分かっていながら、扉を開ける。  中はまだ暖炉の火が落ちていなかった。そしてそこに、柔らかな金色の髪が見えた。 「ビセンテさん」  振り向いた彼が、困った顔をする。けれど拒んではいないと、すぐに分かった。 「このような時分に、不用心ですよ」 「眠れなくて」  言えば苦笑したビセンテが、日中と同じように隣を開けてくれる。  緊張はした。けれど、試されているようでもある。気を引き締めて、隣りに腰を下ろした。
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