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その夜、白雪姫は眠れなかった。日中のビセンテが頭から離れない。寂しそうで、泣きそうな顔をしていたように思う。
彼は信じていないのだろうか。純粋な愛や、絆というものを。
でも、そうは思えない。もしもそうならどうして、彼はあの本を読んでいたのだろう。内容はもう、知っているのに。
立ち上がり、落ち着かなく部屋を出た。とての眠れる気配がしなくて、行くあてもなく彷徨っている。自然と、談話室の前で足は止まった。
この時間に、誰もいるはずはない。分かっていながら、扉を開ける。
中はまだ暖炉の火が落ちていなかった。そしてそこに、柔らかな金色の髪が見えた。
「ビセンテさん」
振り向いた彼が、困った顔をする。けれど拒んではいないと、すぐに分かった。
「このような時分に、不用心ですよ」
「眠れなくて」
言えば苦笑したビセンテが、日中と同じように隣を開けてくれる。
緊張はした。けれど、試されているようでもある。気を引き締めて、隣りに腰を下ろした。
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