Ep①

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「うぎゃっ!」  しゃがんですべてのパーツを隠そうとする。 「濡れた服はランドリーサービスに出しといたから」  バスタオルを美弥の頭に落下させる。  それを身体に巻きつけながら、脇をすり抜ける真堂を見上げた。  引き締まった下腹を隠すようにバスタオルを巻きつけている。  中腹部はパキッと割れて分厚い胸板へと続く滑らかな筋を描いていた。  「ちゃんと拭けよ」  戸がゆっくりと閉まっていく。  そこから覗く薬指には、くすんだ銀の指輪がはめられていた。  美弥は視線をそらした。  じっとりとした重苦しい感情。  苛立ちと似ているが少しだけ違う。  ――嫉妬だ。  下から突き上げてくるような衝動を懸命に抑えつける。  美弥は濡れた身体を拭くと籠の中に置かれていたバスローブを羽織った。 「そういえば、おまえが卒業した高校もスクールリングだったよな?」  打ちつけるシャワーの音振り切るように声を張り上げているが、あえてそれを無視する。  だが、それでも追いかけるようにガタッと戸が半分だけ開いた。  湯を滴らせる堀の深い顔が覗く。 「そうですけど、それが何か?」  美弥は、視線をそらして中を見ないようにした。 「マリッジリングって呼ばれてたよな?」  確かにそうだった。  指輪の内側に自分のイニシャルの一字を刻んであるからだ。   当時としては珍しいほど自由な校風の高校で、制服も校章もなかった。  ただ銀の指輪をつけるだけ。  しかもそ形もシンプルで、表面をどのように加工しようがOKだった。 「社長のところもそうだったんですか?」 「いや、俺のところはバリバリのお坊ちゃんお嬢ちゃん校。金さえあれば白紙回答でも入学できる」  シャワーは流しっぱなしだ。  なぜ、止めなのだろう。  出るのか出ないのか――。 「なぁ、一緒に浴びないか?」  話の流れとは全く関係ない、唐突な誘いに美弥は、ボンッと怒りを爆発させた。 「いい加減にしてください! 真堂さんには奥さんがいるでしょう! バカにしないで!」  バスルームから出ると、叩きつけるようにドアを閉めた。  
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