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奈菜たちがヴィレッジガーデンをやめてしまったら、この村の良い思い出を彼女たちから奪ってしまう事になる。それだけは避けたいと直輝が思うのももっともだ。
けれど、その気遣いをこれ以上直輝一人に負わせたくない……。
机の前で数学の問題が幾つ解けたって賢くも偉くもないのだ。村では他人の問いかけに自分が真剣に答えなければ、居場所すらあやふやになってしまう。
本当に。村の人間に、本当になりたいと思っているんだよ……。
その事を彼女たちにどう分かってもらえばいいのだろう、そのためにもH市に立ち戻って改めて考えてみたかった。
終点に近づいた頃、待ち合わせに選んだベイサイドタワーが列車の窓に姿を現す。駅に直結する日本有数の高層ビルだ。季節を表す背景のない灰色のビル群が異質に見えるのは、緑の多いくすのき村の自然に目が慣れたせいだろうか。
空が低い。世界が、小さく感じる。
村で暮らす前とは真逆の印象を、望実はこの大都市に抱いていた。便利かもしれないが生活感が希薄なこの街では、人の多さに反比例して孤独が募って来る。
玲奈に早く会いたい。望実は落ち着かない気分で自分の腕を抱く。
みんなに何と言えばいいんだろう? 村の子たちが目を輝かせて憧れる都会は、こんなにも寂しくて窮屈なのだ……。
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