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高速エレベーターでベイサイドタワーの展望台に着くと、窓枠のないガラス張りのフロアは人で一杯だった。街を見下ろし、はるか遠く海まで見渡せるこの展望台はH市の人気スポットだ。
すぐに双眼鏡を覗く玲奈の姿が見つかって、望実は暗い表情を隠して彼女に近づいた。
「玲奈ちゃん、久しぶり」
備え付けの大きな双眼鏡から顔を上げた彼女は、また少し髪が伸びていたが、夏に会った時と変わらない弾けるような笑顔で、「ずっと待ち遠しかったよ。来てくれてありがとう」と言った。
望実は玲奈に会えた喜びで心が温かくなった。相談事は電話で話したけれども、1人だった心細さが「心配ないよ」と拭われたようだった。
「丁度良かった。望実ちゃん、双眼鏡を覗いてみなよ」
「うん……」
玲奈と代わって、望実は両方の眼で双眼鏡を覗く。
大きく視界に写されたのは、遠く遠く、だが見覚えのある景色だった。
「あっ、晴間山だ!」
紅葉の出始めた晴間山は、他の山と比べても目立っていて、どこから見ても目印になる程見つけやすそうだった。
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