5章 透明な痛み、冬の嵐

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「……この前、裏庭で奈菜さんと古城君が話しているのを聞いてしまったの。わたし何だか、村のことをあまり知らなくて、引っ掻き回すようなことをしてごめんなさい」 「悪いのは芳崎じゃない」  直輝は首を振った。 「奈菜の家は、俺んちと同じ農家をやってるんだけど、あいつ一人っ子なんだ。もう親父さんの代で家業を畳むって……。だから小さい時はよく言ってた。『あたしが男だったら良かった』って」  彼女の気性の荒さは、込み入った家庭の事情もあるのだろう。 「去年、奈菜に告白されたのは本当だ。でも、恋愛っていう感じじゃなくって……断ったんだ」  ……彼女にとって直輝は『特別』だった。恋愛の好き嫌いを超越して、彼は『なりたかった自分』そのもので。  いずれ都会に出ていかなければならない奈菜は、直輝に村の中だけで完結する物語の住人でいて欲しくて、彼を束縛しようとした。  そんな彼女の精神視野を直輝は話してくれた。 「なんていうか……奈菜は自由に見える芳崎が羨ましいんじゃないか、俺はそう思う」  会いたいと思う時会える。  話したいと思う時話せる。  心の壁のない直輝と望実の関係が、奈菜には特別なものに見えたのだろうか。  そんなことない、奈菜のように告白する勇気がないだけなのに……。  
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