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冬は、木枯らしとともに訪れる。
落ち葉が風で舞い上がると、容赦なく肌を突き刺し、望実は嵐のさなかにいるような錯覚を覚える。今夜あたり初雪が降るかもしれなかった。
奈菜の家は棚田を通り過ぎた所にある、立派な門構えの古いお屋敷だった。彼女の家は昔からこの辺り一帯の地主だったそうで、屋敷に面した広大な田を有しているのを目の当たりにして、望実はただ驚くしかなかった。
「すごい、蔵があるよ……。こんなの初めて見た」
村一番のお嬢様の家の前で痛くなるほど首を巡らして、望実はしばらくためらった。
いけない。ここで挫けては。
望実は思い切って、門柱のインターホンを押す。
「こんにちは。先日お電話した芳崎ですが」
しばらくして門を開いて中から出てきたのは、私服を着た奈菜だった。あからさまに機嫌の悪い表情で、突然の来訪者を不審がる。
「何の用かしら、芳崎さん」
「お米を借りに来ました」
「はぁ?」
すると、奈菜の父親と思しき男性が、門の影から姿を現した。そして体操袋くらいの大きさの紙包みを、望実に手渡す。
「芳崎さんだね。はい、これ」
「ありがとうございます」
小さく礼をして顔を綻ばせる望実に、奈菜は我に返って理解不能な怒りに震えた。
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