5章 透明な痛み、冬の嵐

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「ちょっと! これ、借りていくって量じゃないでしょ、芳崎さん!」 「いいんだよ、奈菜」  父親は、奈菜をなだめすかすように言う。 「今度のクリスマス会で使うそうだよ。奈菜、米袋を担いだサンタクロースになってみるのも粋なものだと思わないか?」 「……お父さんの言っている意味が、全然分からないんだけど」 「それは当日のお楽しみだ」 「私は……」  言葉に詰まった奈菜に、落ち着きを取り戻した望実はようやく声をかけた。 「奈菜さん。中学最後のクリスマス会だから、絶対来てくださいね。みんなが待ってます、記念に残るクリスマスになるように」 「……」 「キーホルダー作りをしたとき、奈菜さんは褒めてくれましたよね? わたしすごく嬉しかったです。だから今度は奈々さんのために何かしたいんです」  望実は真っ直ぐに奈菜を見つめた。傷つきもせず、素直でひたむきな眼差しに触れて、奈菜は目を伏せてしまう。 「それじゃ、待ってます。わたし、信じてます」  失礼しますと言い置いて、望実は奈菜の家を後にした。米袋の重さが手の内にあって、本当に託されたサンタクロースの袋だ。  あとは奈菜が来てくれる、それだけを願うしかない。  顔に冷たいものが当たり、望実は冬の重苦しい空を見上げた。  小さなダンテライオンの種のような、初雪が舞い降りてくる。果敢に地面に降下しては消える雪の粒が、村に本格的な冬の到来を告げるのだった。
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