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「ちょっと! これ、借りていくって量じゃないでしょ、芳崎さん!」
「いいんだよ、奈菜」
父親は、奈菜をなだめすかすように言う。
「今度のクリスマス会で使うそうだよ。奈菜、米袋を担いだサンタクロースになってみるのも粋なものだと思わないか?」
「……お父さんの言っている意味が、全然分からないんだけど」
「それは当日のお楽しみだ」
「私は……」
言葉に詰まった奈菜に、落ち着きを取り戻した望実はようやく声をかけた。
「奈菜さん。中学最後のクリスマス会だから、絶対来てくださいね。みんなが待ってます、記念に残るクリスマスになるように」
「……」
「キーホルダー作りをしたとき、奈菜さんは褒めてくれましたよね? わたしすごく嬉しかったです。だから今度は奈々さんのために何かしたいんです」
望実は真っ直ぐに奈菜を見つめた。傷つきもせず、素直でひたむきな眼差しに触れて、奈菜は目を伏せてしまう。
「それじゃ、待ってます。わたし、信じてます」
失礼しますと言い置いて、望実は奈菜の家を後にした。米袋の重さが手の内にあって、本当に託されたサンタクロースの袋だ。
あとは奈菜が来てくれる、それだけを願うしかない。
顔に冷たいものが当たり、望実は冬の重苦しい空を見上げた。
小さなダンテライオンの種のような、初雪が舞い降りてくる。果敢に地面に降下しては消える雪の粒が、村に本格的な冬の到来を告げるのだった。
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