5章 透明な痛み、冬の嵐

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 12月24日のクリスマス会は午前と午後の部に分かれ、午前は学校の調理実習室を借りての準備時間だ。  望実たち中学生女子の担当はケーキ作りで、道具を棚から出しながら材料を確認していると、木製の引き戸が音を立てて開いた。  憮然とした表情の奈菜とその友人は無言で室内に入ってゆき、後方の机に陣取っている。事情を知らない皆も不穏な空気を察知して、目くばせをしながら彼女の様子を窺う。 「奈菜さん!」  ただ一人、望実だけが目を輝かせて奈菜に駆け寄る。 「来てくれたんですね、はい、エプロン」 「芳崎さん」  奈菜がぽつりとつぶやく。 「やっぱり、あなたはよそ者よ」  椅子から腰をひねって望実に向き直り、奈菜は大袈裟に溜息を漏らした。 「昔からこうだった。みんな、私の家が土地持ちだから、機嫌を損ねたくなくて出来たてのニキビのように扱う。謝らなくても言うことを聞いてくれる。でも、あなた相手にはそんなやり方通用しないのね」 「奈菜さん」 「分かったわ。あなたの本気、見てあげる」
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