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無造作に立ち上がり、エプロンを付ける奈菜の姿を見ると、友人たちも慌ててそれに従う。彼女は気難しいけれどやっぱりいい人なんだなと、望実は再認識した。
遠巻きに成り行きを見守っていた女子は、安心したように自分の持ち場へ戻っていく。
「奈菜さん、あれが今日の主役です」
望実はテーブルの真ん中に置いてあった白い粉を、気合の入った奈菜に見せた。
「ただの小麦粉でしょ。ケーキを焼くって聞いてたけど……」
「小麦粉じゃありません」
望実は首を横に振る。
「この間、奈菜さんの家に借りに行ったお米です」
「えっ?」
「水を吸い込ませた米を乾燥させ、ミキサーにかけて粉状にした米粉です。今日はこの米粉で、シフォンケーキを作ります。村一番のクリスマスケーキですよ」
「村一番……」
「粉はたくさんありますから、お持ち帰りも出来ます。ぜひお父さんにも食べてもらってください。奈菜さん家のお米で作った、奈菜さんの手作りケーキを」
「……ま、まあまあなアイデアね」
奈菜の言葉は今一つだったが、まんざらでもない様子だった。自尊心をくすぐられたのか、奈菜の眼に好奇心の灯がともる。
「まず、ハンドミキサーで卵白を泡立ててグラニュー糖を入れながらメレンゲを作って……」
実り豊かな米を育んできた誇りを一風変わった形で表現する。
新しい方法で伝統を守っていく道があることを、望実が五感で伝わるよう模索し、そのなかで見つけた方法だった。
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