5章 透明な痛み、冬の嵐

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「食べるの、楽しみ」 「お米の粉でもちゃんとケーキになるのね」  賑やかな女子の雑談の隣で、望実は手早く生クリームを作っている。その隣で奈菜は不思議そうに見ている。 「へえ芳崎さんって、ちゃんと中身の詰まった女の子なんだ」  そう呟く奈菜の関心は、ケーキから望実へと移ったようだった。 「もっとぼやっとした子だと思ってた」 「他の人からもよく言われます」  望実は苦笑する。 「うちはお母さんが病弱で寝込むことが多かったから、元気が出るように何かお見舞いをしたくて……小さい頃から絵を描いたり、手紙を書いたり、それに手作りの品を添えるようになったんです」  まだ都会の小さなマンション暮らしだった頃を、望実は振り返る。 「今もお母さん、昔の贈り物を大事に持っていてくれます。だから喜ぶ人の顔が見たくて、ものを作ることが好きになりました」 「私のお父さんも……喜んでくれるかしら」  焼いているケーキが膨らんでいくのを眺めながら、奈菜は恥ずかしげに言う。 「心を込めて作れば、普段は言い表せない気持ちまでラッピングされて届くものなんです。お父さんもお家でケーキが焼けるのを楽しみにしていると思います」  望実は弱気な顔を見せる彼女を励ますように、声を弾ませて言った。  奈菜は「そうかしら」と口元に笑みを浮かべる。彼女の家の複雑な事情は表には見えないけれど、望実の言葉は心の深層にまで伝わったようだった。
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