5章 透明な痛み、冬の嵐

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 カードゲームをしたり、歌を歌ったり、楽しい時間は過ぎていく。今年でヴィレッジガーデンの少年部を卒業する高校3年生有志による劇に、腹を抱えて笑いながら、みんな心のどこかで子供の時間が終わってしまうことに寂しさを覚えている。  けれど、後悔も迷いもない今を楽しむ喜びの方が、はるかに勝っていて、きっとこれを絆と呼ぶのだろう。部屋を包む穏やかな温かさを、望実はこれからもきっと忘れないと思う。    パーティーが終わるころ直輝が、奈菜の席に来て隣に座る。 「俺が、手を離しても大丈夫」 「直輝」 「心配するな。心を開けば、お前は可愛いし素直だって、みんながちゃんと知っている」  直輝が、嫌われる覚悟で初めて明かす本心に、奈菜は泣くのを堪えて「そんなの分かってるわよ馬鹿」と呟く。  進んだ時計の針は巻き戻せない。恋になり切れなかった友情が、散り際の美しさを振り返り初恋だったと知るのは、多分ずっと後のことだろう。
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