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6章 めぐる季節を、あなたとともに
慌ただしく正月が過ぎていき冬休みが終わると、村にはまた元通りの日常が戻って来た。この時期には観光客の数も減り、裸の木々と相まって閑散とした景色が広がっている。
学校の昼休み、望実が図書室で借りてきた本を読んでいると、廊下から誰かの口笛が聞こえてきた。どこかで聞いたような、ノスタルジックなメロディ。望実が顔を上げると、視線の先には教室に入って来た直輝がいる。
「どうしたの?」
「数学の小テストが100点だった」
珍しく上機嫌の直輝は、望実の前の空いている席に腰掛ける。
「何の曲なの?」
「『早春賦』、古い唱歌だ」
「昔の曲なんてよく知ってるね」
「笛の練習で、大人の寄合にも顔を出すからな。周りがじいさんばあさんばかりで、自然に覚えたんだ」
振り返った直輝が、望実の本を興味深そうに見つめる。
「『アーティストの手仕事』……そんなのに興味があるんだ」
「将来の役に立つって、学校の勉強だけじゃないと思うんだ。古城君みたいにまだ職業が決まったわけじゃないけれど、今からやっておこうと思って」
「高校は、町へ行くんだろう?」
「多分。でもその先って分からないよね、この地域に残って出来る仕事が見つかればいいけれど……」
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