6章 めぐる季節を、あなたとともに

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 彼は、奈菜に対する回答を誠意をもって出した。  時間は待ってはくれない。  彼から本当の気持ちを聞く最大のチャンスに一人相撲をしていては、応援してくれる遥と玲奈の想いも無駄にしてしまう。 「言ってごらんよ、『好き』ってさ」 「でも……」 「あいつはあいつで、みんなに村へ置いて行かれる側だからさ。無理に引き留めるようなことは昔から言わなかった。いつだって、自分の事は後回しで……」  弟である直輝は、遥の目にどう映っているのだろうか。窓の外では風の音が強く、冬の勢いが増してきた晴間山は白く染まって、水墨画に描かれた世界のようだ。 「なかなか言い出せないと思うけど、望実がこの村に来て一番喜んでいるのは直輝だと思うな」  望実も、彼と同じだ。  この村に来て一番嬉しかったことは、直輝に会えたことだから。  勇気のある一歩を踏み出せは、彼の孤独に手が届くだろうか。それは告白してみなければ分からない事だった。 「それに『好き』って、伝えるだけで価値ある言葉じゃないかな。感謝も含めて」 「感謝……ですか」  望実はそう言われて素直に心が開かれてゆくのを感じる。  自分なりの『好き』を告白で表現する。迷いが解けて望実は温かな気持ちに戻った。  出会ってくれてありがとう、一緒にいてくれてありがとう。そう伝えることは、とても素敵な事なんだと。
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