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2月14日、バレンタインデー。
さすがに学校でチョコレートを渡す勇敢な女子生徒はいないようで、授業時間はあっという間に過ぎ去り、帰宅の時刻になる。
昨日から続いた雪は止んでいたが、折から猛威を振るう寒波のせいで、足元の積雪が路面で凍結していて、門から出たところで望実の脚は竦んでしまう。
どうしよう、ここからは下り坂なのに……。
帰り道が恐怖に感じる。歩き慣れたいつもの道のりなのに、家までの坂道は思った以上に滑って歩きづらい。ザクッという氷混じりの雪を踏む音が、一歩の足取りを確かめるごとに冷たく響く。
何とか家の近くまでたどり着いた時、つい気が緩んで急いでしまい、望実は滑って転んでしまう。
「あっ!」
そう思った瞬間、誰かの手が望実の腕をつかんで支えた。
「大丈夫か?」
直輝の声が、頭の上から降って来る。
突然のアクシデントに、望実は彼の顔をまともに見られず、「うん……」と声を詰まらせた。
「晴間山から冷たい空気が下りてきて、冬場はよくこんなことになるんだ。立てるか?」
彼が引き寄せた腕に籠った力強さに戸惑いつつ、望実は彼の手を借りて態勢を立て直す。
どうしよう……心の準備ができてない。
家に帰って落ち着いてから、バレンタインチョコと一緒に告白しよう。そう心に決めて何度もシミュレーションしていたのに、こんな所でばったり出くわすなんて想定外だ。
直輝は直輝で、照れたように手を離し「い……今のはなかった事にしてくれ」とそっぽを向く。
雪の中を先に進んで行ってしまおうとする直輝に、望実は「待って!」と叫ぶ。
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