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「夜は気をつけたほうがいい……地下室の棺桶で、ドラキュラ伯爵の末裔の吸血鬼が眠っている。父上のコレクションなんだ」
このお屋敷なら、そんな棺桶が眠っていてもおかしくないと思えてきて、思わずカタカタと歯をならしてしまった。
私の表情にすっかり満足したように御坊ちゃまは楽し気に笑った。
「ふふふ。大丈夫。うちに棺桶なんてないよ」
嗚呼……やっぱり御坊ちゃまの冗談かとほっと胸を撫で下ろした所で、唇を撫でられた。
「でもね……父上に食べられてしまうかもしれないよ。美佐は若くて可愛らしいからね」
一瞬、旦那様と想像の中の吸血鬼が重なって、その妄想を振り払った。そして食べられるという言葉に別の意味を感じ、身体が熱くなった。
まさか……あの旦那様がそんな事をなさるとは思えない。でも吸血鬼などという作り物の化物より、主人が女中に手を付ける方が、ずっと現実味のある話だ。
御坊ちゃまはさらに嬉しそうに笑った。
「顔が真っ青になったり、真っ赤になったり、忙しいね。美佐は可愛いな。きっと良い家庭で育ったのだろうね。羨ましいよ」
先ほどまでの揶揄うような意地の悪い笑みは消え、本当に羨ましいかのように、儚気に微笑んだ。晴れていたと思ったら急に雨が降ったような、御坊ちゃまの不安定な移り変わりが不思議だ。
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