●一ペエジ

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 美佐の返事に子爵は満足げに頷き、すぐに興味を失ったように秋の終わりを告げる庭を眺めた。  残り少ない葉がぶら下がる枝と、枯れ葉の絨毯の侘しさが、とても子爵に似合っていた。  庭を眺める子爵の姿は時が止まって見え、まるで写真で切り取ったように微動だにしない。  子爵が一人の世界に入ったとき、話かけても無駄だと、美佐は女中頭から聞いていた。だからそっと退出した。  美佐の祖父・善吉が昔、桐之院家の庭師をしていた。既に引退したが、祖父から桐之院家の噂を色々聞いている。良い噂も、悪い噂も。  ーーだからこそ、この目で見たものを、正確に記録する事は大切な事かもしれない。  美佐はさっそく筆をとり、初めてこの家に来た日の事を思い出した。
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