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朗らかな明るい青年の声が背後から聞こえ、私は振り向いた。その麗しい顔立ちに一目でわかった。噂に名高き桐之院家のご子息・悠之介御坊ちゃまだと。
飛び級で帝大に入った俊英で、この世のものとは思えぬ美貌。天は二物を与えずというが、この人には当てはまらないのだろう。
「は、初めまして。今日からここで働かせて頂く事になったものです」
「へえ……こんな若い女中さんは珍しいな。ふふふ、父上に買われてきたのかな?」
揶揄いを含んだ無邪気な笑みに言葉を失う。
桐之院家の噂の中でもっとも酷いものは……御坊ちゃまは、美少年趣味の子爵に買われた、養子だという噂だ。
真偽もわからぬ酷い噂だが、当の本人は冗談でこんな事を口にするあたり、それほど気にしていないのだろう。
日の光に透けた琥珀色の髪が風にそよぎ、唇は弓の様に美しいカーブを描く。朗らかなのにどこか憂いを含んだ瞳は、魔性とも言うべき魅力を放っている。
こんなに綺麗な男の人は初めて見た。きっとあまりに美しいから、おかしな噂がたつのだろう。
「いえ……その。私の祖父が昔ここで庭師をしてたもので……」
「ああ、もしかして善吉さん? 懐かしいな。昔、話をした事があるよ」
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