●一ペエジ

6/7
前へ
/55ページ
次へ
 その日の夜、私は初めて洋食を見た。旦那様も御坊ちゃまも、ナイフとフォークを手慣れた手つきで食べている。その姿は実に対照的だ。 「寺田さん。今日のビーフシチューはよいね。とてもコクあって美味しいよ」  側に控えていた専属の料理人の寺田さんは、御坊ちゃまの言葉に少し嬉しそうに頷いた。御坊ちゃまはニコニコと、実に美味しそうに召し上がっている。  白い皿に入った、茶色のビーフシチューから漂う香りは、食べたことのない私にも、美味しそうに感じられた。    反対に旦那様は、眉一つ動かさずに、淡々と召し上がっている。まるで味のないものを、ただ口に運んでるだけのような、機械的な仕草。ふと食事の手を止め、じっと御坊ちゃまの顔を見た。 「悠之介。学校の調子はどうだ?」  旦那様に話かけられたのが嬉しいのか、御坊ちゃまは実に楽し気に、早口でまくしたてた。 「とても好調で、主席卒業もできるんじゃないかと言われています」  御坊ちゃまは旦那様の返事を期待する様に、じっと見つめる。しかし旦那様は相変わらず、何も感心が無いという風情で「そうか……」と言っただけだった。  みるからに御坊ちゃまが落胆するのが見て取れて、少しお可哀想だ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加