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その日の夜、私は初めて洋食を見た。旦那様も御坊ちゃまも、ナイフとフォークを手慣れた手つきで食べている。その姿は実に対照的だ。
「寺田さん。今日のビーフシチューはよいね。とてもコクあって美味しいよ」
側に控えていた専属の料理人の寺田さんは、御坊ちゃまの言葉に少し嬉しそうに頷いた。御坊ちゃまはニコニコと、実に美味しそうに召し上がっている。
白い皿に入った、茶色のビーフシチューから漂う香りは、食べたことのない私にも、美味しそうに感じられた。
反対に旦那様は、眉一つ動かさずに、淡々と召し上がっている。まるで味のないものを、ただ口に運んでるだけのような、機械的な仕草。ふと食事の手を止め、じっと御坊ちゃまの顔を見た。
「悠之介。学校の調子はどうだ?」
旦那様に話かけられたのが嬉しいのか、御坊ちゃまは実に楽し気に、早口でまくしたてた。
「とても好調で、主席卒業もできるんじゃないかと言われています」
御坊ちゃまは旦那様の返事を期待する様に、じっと見つめる。しかし旦那様は相変わらず、何も感心が無いという風情で「そうか……」と言っただけだった。
みるからに御坊ちゃまが落胆するのが見て取れて、少しお可哀想だ。
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