●一ペエジ

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 食後にデザートという、甘い物を食べるのが西洋式だと聞いた。  御坊ちゃまの前にだされたのは、みずみずしい桃。良く熟れた果実が、ガラスの器の上で、輝いて見えた。  旦那様も同じ物かと思ったのに、旦那様の前に差し出されたのは、赤く透き通った寒天のような菓子。  それを見た途端、旦那様の眼が輝いた。感情を表に出す旦那様を、初めて見たので、驚いたのを覚えている。 「今日はゼリーか」 「はい。今日は良い素材が手に入りましたので」  旦那様はスプーンで一匙ゼリーをすくいあげ、口に運ぶ。口に含んだ途端に、頬を緩ませた。 「美味しい」 「ありがとうございます」  まるで他の物は眼に入っていないとばかりに、楽しそうにゼリーを食べ続ける旦那様を、呆然と見つめてしまった。その時くすくすと笑う声が聞こえてくる。 「美佐。父上は甘いものに眼がないのだよ」  御坊ちゃまは楽し気に言う。冗談かとも思ったが、旦那様の様子を見ると、嘘とも思えない。何事にも動じない旦那様が甘い物好き。それは思わず私も微笑んでしまうような可愛らしさだ。  私は素直な気持ちで笑みをこぼした。
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