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●三ペエジ
その日は小春日和ともいえる暖かな日だった。風もなく日当りの良い場所なら、外でも暖かい。寒い冬がやってくる前の、最後の穏やかな陽気だった。
「旦那様。今日は暖かいですし、たまには庭でお茶を召し上がりますか?」
旦那様の顔をしっかり見て、私は言った。この所仕事が忙しいのか、夜遅くまで書斎で書き物をされていて、お疲れのように見えたから。少しでも気晴らしになればと思って。
しかし旦那様は首を横に振った。
「私は太陽の日差しが嫌いだ。私から生気を奪っていくようで、忌々しい」
その言葉を聞いて、ふいに御坊ちゃまの冗談を思い出した。太陽の光が嫌いな吸血鬼。その姿と旦那様が被って見えたのだ。
「美佐。何かあったのか?」
言われてどきりとした。御坊ちゃまとのあの時の会話も日誌に書いたし、それを旦那様にも見せた。告げ口のようで御坊ちゃまに申し訳ないのだが、それが私の仕事だから仕方が無い。
旦那様の静かな瞳に、じっと見つめられると、嘘も隠し事もできなかった。恐る恐る……と重い口を開く。
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