ブランデル第三階層

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ここは月面都市の最下層、それが僕の知る世界の 全てだった。 幼少期にAβコンバクトに感染した僕に、 地球の記憶は(ほと)んどなかった。 この最下層の都市に僕が送られたのは、 僅か4才の頃。 それから11年、僕は15才になっていた。 僕が物心つく前に両親はこのウイルスに感染し死んでいた。 突然流行したこのウイルスは、人類の半数を (わず)か1年で抹殺したと言う。 このウイルスは何故か子供には感染しても、 すぐに発症はせず潜伏し、大人になってから 突然発症するらしい。 大人が発症した場合の一年生存率は僅か10%。 今では発症を抑える薬品も出来たが、 当初このウイルスに対する対抗策は無く、 隔離以外に方法が無かったのが現状である。 現在地球の人口は当時の20分の1にまで減少し、 その生き残った人の殆んどは子供である。 つまりはこの世界には大人が圧倒的に少ない。 いや僕の育ったこの隔離施設に限って言えば いなかった。 大人が感染すればほぼ死亡するウイルスである。 その感染者を収容するこの都市に大人がいないのは必然だった。 大人がいない社会で秩序は保たれるのか。 それを担っているのがロボットだった。 完全自立型のロボでは無く、遠隔操作された ロボットである。 学校もあり授業はロボットが行う。 とは言え遠隔操作された向こう側では、 ちゃんとした人間の教師が教鞭をとっている。 そう僕らは知識として大人を知っているが、 見た事が無いのだ。 子供達だけの世界。 それがこの月面最下層の収容施設だった。 施設とは言えその実態は1つの街である。 地下都市と言った方が良い。 アポット(ドローン型の自動監視カメラ。球形状で横に虫眼鏡見たいなプロペラがついている)が、 常に上空を飛び、僕らはこの都市で常に監視されていた。 月面は地球の6分の1の重力しかない。 その為アポットは少しの推力で長時間、自由自在に街を飛び回れるのだ。 街全体が監視された牢獄の中で、僕らは生かされていた。 そう生かされていたんだ。
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