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さてと。前置きに関してはここで幕を下ろしておくことにしよう。だって、今ボクのことについて何十分と話したところでこれから先においてそれが意味を成す保証はどこにだってないのだから。それこそ生産性に乏しい無駄話である。
それじゃあ、ネット弁慶の力でボクの物語を荒らしていこうじゃないか。
ボクの名前は王白皇。何を隠そう童貞である。
◆
地球のことを『水の惑星』と呼ぶことに関しては特に異論はないし、水没しているかの様な息苦しさと魚の様にルーティンワークの如く街並みを揺蕩う雑踏を見ている限りではそれは言い得て妙であるとは思っているよ。だけれど、宇宙飛行士のユーリ・ガガーリンの遺した「地球は青かった」という言葉に関しては理解が追い付かないどころか理解を放棄している節がやはりもって否めない。
この世界に色なんて艶やかな概念はそもそも存在していないと思うよ。少なくともボクはそういった見方で世界を傍観しているわけだ。
十人十色なんて言葉が尊重され始めたあたりから世界から色が消えていったような気がする。まるで、刃物で引き裂いた腹部からハラワタを根こそぎ引き抜いて後は知らんぷりな、一方的加虐のように。
残念ながら、個性を求める行為が何より個性を死滅させることを、今の大人はまるで理解していない。いや、理解した上でそれを黙認して社会を回している。そんなわけで現代社会は頭の取れた美少女ドールのように非常に都合の良いサイクルの下で動いている。
ボクの視界は、何処までも濁り澱んだ銀鼠のように腐敗していた。何をやっても及第点。過保護の檻は錆の香り。ボク以外のすべてがオブジェクト。だけれど、弱肉強食だけはこの世の真理。いつだって最後に勝つ奴こそが正義であり、勝者の言葉が歴史を紡いでゆく。敗者と同義の弱者のボクが何を言おうが、その言葉は排ガスに呑まれて何処かにいるであろう理不尽ってモンスターに食い荒らされ、糧にしかならない。
例えばボクは乱造品。明日の朝ご飯を食べるために今日を生きています。所詮そんな存在。もはや色のない世界に何も望まない……望めないのだ。
だけど、そんなボクが変われるとしたら。
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