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①
『行きはよいよい、帰りは怖い』
そんな童歌があるけれど、仕事をしている人間にしたら『行きはやだやだ、帰りは嬉し』が多いのではないだろうか。
天宮優奏(あまみや ゆかな)は自転車を漕ぎながら小さく鼻で『とおりゃんせ』を歌う。
冬から一変、暖かくなった春の夜はどこかぬるま湯で、肌に張り付くような空気を纏っている。
仕事帰りの天宮は終わった桜の樹の下を自転車で通りながら、約15分、徒歩では約30分の帰路を辿っていた。
勤務しているスーパーの周りには駅やデパート、カラオケやゲームセンターなど、様々な煩さが充満しているけれど、それを抜ければ静かな、かつまだ自然も残る住宅街―――天宮はその住宅街の小さなマンションに住んでいる。
「はい、到着っ」
きぃ、と。
古い音を立てた自転車を駐輪場へと置き、かごに入れていたスーパーの大きな袋を取り出した。そして鍵を肩から下げていたカバンから取り出し、オートロックを解除する。
マンションタイプでもエレベーターが無いのがガンだが、行きよりも軽い足取りで三階まで昇り、扉を鍵で開ければ己の城。
「ただいまぁ」
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