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『位置に着いた。作戦を始めろ』
その一声で三方からの攻撃が始まり、敵陣が慌ただしく動き始める。
「それじゃ、俺も始めるか」
呟いた独り言に、
「隊長、本当にやるの?」
――と、誰かからの声が飛んでくる。
息を呑んだ。
短刀を抜きつつ振り返る。
見れば、そこに立っていたのはあの獣人の衛生兵。
敵ではなかった。
ただその事だけに胸を撫で下ろし、安堵する。
しかし、それも一瞬。
「驚かすな。そして何故居る」
「怒らないでよ。心配だっただけ」
「新人に心配される覚えはない」
途端、獣人の顔が曇った。
「やっぱり、覚えてないんだ…」
「覚えて…?」
「折角、君を追い掛けて軍隊にまで入ったのに…
こんなところまで追い掛けて来たのに…」
その目には、涙が浮かんでいる。
これ以上、作戦に遅れは出せない。
目の前の仲間と作戦。
二つを天秤にかける。
優先すべきは作戦だろう。
しかしこの少女は放っておけば走っていってしまう。
その先に待つのは取り返しのつかない死。
そんな気がして。
「悪いが、その話は後だ。俺に続け」
天秤にかけた二つを、両方手に取ると決めた。
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