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第一章 お江戸の恋模様
(まえがき)
お江戸は、サラサラ桜吹雪。
春もうららな、声明の初候である。
町人たちは花見の宴に出掛けては、彼方此方で大いに浮かれていた。
そして、春と言えば結婚シーズン。
八代将軍・吉宗さまが幕府の経費節減の為に、大幅な大奥女中のリストラ作戦を敢行して半年が過ぎた。
昨年の秋に、千代田のお城から放出された大奥の美女たち約五十人も、其々の春を迎えたのである。
江戸は開闢以来、女よりも男の数の方がダントツ多い町である
其処へ行き成り、大奥から美女ばかりが五十人も放出されたのだから、どんな騒ぎが起きたかは想像に難くない。
其のあおりを喰らい、此のところずっと恋愛相談や縁談話し、果ては恋のさや当ての喧嘩騒ぎ等々、南町奉行の大岡越前守忠相さまは悲鳴を上げたくなるような、下らない雑事に追われていた。
「これも全て、上様の所為じゃ」
愚痴が漏れる。
つい昨日も、千代田のお城の御庭に呼び出されたばかりだ。
「忠相、女どもの其の後は如何じゃ。大奥から下がってから、皆、幸せにして居るか」
勝手に放出して置いて、配下に責任を押し付けるあたり、さすがは将軍様である。
「よもや、岡場所へなど、売られては居るまいな」
眉間にしわを寄せて、キツク睨み付けられた。さすがに紀州徳川家の四男坊に生まれ、生母の身分が低かったために、捨てられたも同然に家臣の家で育てられただけに、下世話な事にも詳しい。
「いえ、滅相も御座りませぬ」
慌てて否定した。
「ふ~ん。なれば、どの娘が、どの様な幸せを掴んだか申してみよ」
具体的には、まだ誰も嫁いではいない。
結果を求められて、コーナーに追い詰められた忠相。
「ひと月の猶予を与える。先ずは五人ほど嫁がせよ」
勝手なことを言い付けると、高らかに笑った。
ソンナ訳で、南町奉行・大岡越前守忠相が主宰する強制的結婚相談所が、遂に開設されたのである。
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