第二章  右京という名の災難!

38/38
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
 雅樂屋が駕籠脇に付き、忘八に担がせた駕籠が深川の黒鉄屋の屋敷に向かって吉原の大門の前を出立したのは、夜見世が始まった時刻。  花嫁行列の前と後ろを忘八に護られて、駕籠脇には雅樂屋が付き添い、間も無く黒鉄屋の店先に着く。  黒鉄屋に無事に花嫁を送り届け、祝言を見届けるまでが楼主の務め。吉原では、お抱えの太夫が身請けされる日を、楼主は娘を嫁に出すのと変わらぬ心持ちで迎える。  紋付き袴に身を包み、忘八にも雅樂屋の紋が入ったお仕着せを着せ、美々しい花嫁行列が進んでいく。  駕籠の中には綿帽子を被った、花嫁装束の右京。提灯の灯りに導かれて朧月夜の薄い月の光に照らされ進む花嫁行列は何処か、狐の嫁入りにも似ていた。  深川の黒鉄屋の店先には、一目でも花嫁を見ようと夜にも関わらず人垣が出来ていた。  黒鉄屋の座敷で、花嫁の到着を待つ辰五郎と大岡越前。  忠相の眼が心なしか潤んだ。  吉宗様に言い付けられていたリストラ娘の祝言は、これで十件目を迎えた。  ノルマ達成だ!  微かに口許が緩んで、微笑みが浮かぶ。  そして右京はその夜、遂に黒鉄屋辰五郎の女房になったのだった。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!