第四章  *お江戸の娘は負けませぬ*

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第四章  *お江戸の娘は負けませぬ*

 (夢のお告げ)  大岡越前は何とか苦境を脱出した!  右京が黒鉄屋に連れられて、無事に江戸へ戻って来たのである。  然も、何も言わないうちから黒鉄屋が冥加金を持って挨拶に現れると言う、願っても無い幸運付き。  「越前、よう致したぞ」  吉宗様に手放しで褒められ、やれやれと肩の荷を下ろした次第。  「今宵はゆるりと為されませ」  妻に勧められるままに、杯を重ねて珍しく“ほろ酔い気分”。  妻の手を引いていそいそと寝所へ!  「其方はまことに良い女子よ。我が愛しい妻じゃ」、愛妻家の大岡様である。  シッカリとその夜は愛に燃えた。  草木も眠る丑三つ刻。夢の中で寂し気な女の姿を見た。  女は悲しげに泣いている。見ているこちらまで、何やら哀しくなるなるような!  「どこかで見た女子じゃ」  その儚げな風情に何となく記憶がある。だが名前が出てこない。  やがて女は、渦巻く霧の中に消えた。  何故か、呆然と立ち尽くす忠相。  暗闇が広がる!  そのとたんに闇を貫き、吉宗様の罵声が響き渡ったのである。  「忠相!あの旗本を始末せいッ」  癇癪を起した上様のその声に、慌てて飛び起きた。  「殿、如何なされましたか」  妻も慌てて起きた。  「ああぁ・・夢かぁ・・」  その夢に何だか不吉なモノを感じて、ぶるっと震えが来た。  「夢見が悪い時は、おまじないじゃ」  ブツブツと、口の中で唱えるうちに気持ちが落ち着いた。  気分も一新。また妻を抱き寄せて、愛の世界へ。  そんな真夏の夜に見たのは・・<おまじないのお陰ですっかり忘れていた>恐ろしい予知夢だった。
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