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別のクラスである雅巳について、まさか自分から会いに行く勇気は持てなかった。メールもそう。何だか知ってはいけないことを知るような予感がしたのだ。
自分の言葉の行き場を失っていた。誰かに聞いて欲しい。だがそれは誰でもいいわけではない。思いが宙ぶらりんとなっている。
ただ、藍は違った。
なにもしなかった私とは違い、藍は私に会いに来た。教室で友達と話していた私を呼び、「雅巳から何か聞いてない? 」と突然言ったので、私は逆に聞き返した。
私はしばらく雅巳とメールのやり取りをしていないし、学校でも会っていない。クラスが違えば会わないことくらい珍しくないし、メールだって頻度が多いわけではなかった。ただ最近学校に来ないということしか知らない私に、藍はそう、とだけ言って去っていく。
雅巳は少し休みがちになっただけで、しばらくすると以前と同じように登校し始めた。何事もなかったかのように。
もれ聞こえるのは「勉強に集中したかったんじゃないのか」という言葉だけ。秀才はわからない、俺たちとは違うという自虐っぽい話を他のクラスの生徒が話していた。
私はなぜ休んだのか聞いた。彼はただ、ちょっとやりたいことがあったとしか言わなかった。嫌な方向へ考えようとした私を「自殺じゃないから」と笑って否定する。
少し腹がたったので「馬鹿だ」と小突く。何だよという顔で雅巳はこちらを見る。校内は暖房が効いているとはいえ、教室に比べると冷える廊下で繰り返し「馬鹿だ」というしかなかった。
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