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大学の話も、成績の話も、昔のことも藍に敵うはずもない。藍が話すときはただ、黙っているしかないのだ。
図書室に入った私は、カウンターを過ぎ、一番入り口に近い閲覧席に置かれた鞄に目が行った。三色ボールペンとメモ、単語帳が小さなポケットに押し込められている。ぶら下がるおどけた顔の猫のキーホルダーに覚えがあった。
この頃よく見るようになった、藍の鞄だとわかる。
図書室にいるのか、と別の机に鞄を置いて書棚が並ぶ方へ歩いていく。
閲覧席に友達がいて、軽く手をふる。同級生がこの頃図書室で勉強している姿をよく見るようになった。置いていかれるような気分になり、気持ちばかりが焦る。
藍はすぐに見つかった。
綺麗に整えられた爪のほっそりとした指は、ページを捲っていた。捲る指に力が入っているのか、捲られたページが何度も音をたてる。酷く真剣だった。
この本では納得がいかないというように書棚に戻して、同じ列にあった本をに手を伸ばす。
声をかけようか。酷く真剣な横顔に迷ったが、名前を呼ぶと顔がこちらに向く勢いで長い黒髪がさっと広がった。肩に残る一房が滑るように落ちていく。
「ごめん、驚かせた」
「あ、ちょっと集中してただけだから。大丈夫。秋穂は勉強しに? 」
「そう。ちょっと気分転換に場所を変えようと思って」
勢いよく閉じた本を書棚に戻す。藍の顔色が少し気になった。書棚が並ぶここは薄暗いのでそのせいかと思ったが、「じゃあまた」とここに居たくないとでもいうように早々と行ってしまう。
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