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 現実に戻ると、前日に教科書類の準備をしていた自分に少し感謝をしたくなるくらい切羽詰まる時間になり、耳に近い髪がはねたまま高校へ行く羽目になった。  母に急げと言われなくても急ぐって、と慌てたところでバスはもう行ってしまったあとで、全力疾走をした自分が馬鹿らしくなった。次のバスに乗るしかなくなった結果、完全な遅刻となったのである。  先生からも友達からも珍しいという言葉を受けた。遅刻することなんて今までに無かったはずだ。メールしたんだよといわれてから、そういえば携帯が振動していたと思い出した。  出られなかった授業の分は友達からノートを借りて補えば問題ない。だが、友達のノートは黒板に書かれた内容を丸写ししただけなので、どこがポイントなのか、どういう解説だったのかもさっぱりなのだ。これでよくテスト対策として勉強出来るなと思いつつ、さらに他のクラスの雅巳からもノートを借りようと思った。  彼は学年でもいつも成績は上から数えた方が早い。そんな雅巳とは一年間同じクラスだったので知り合いだった。ノートも教えかたも抜群に上手いのを知っている。  メールでノートを貸してくれないかとお願いしたら、それと引き換えに私が何故遅刻したのかという理由を求めてきた。  遅刻は遅刻だろうが、雅巳は私が遅刻するのは何かあったのではないかと思ったらしい。  内容が内容がなので嘘を言うにしても、今はうまい嘘を言えない気がした。それに私も私で雅巳の完璧なノートは毎回お世話になるので、しぶしぶ自殺した夢の話をしなければならなかった。
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