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こんなにまっすぐ、違うと言われたことはなかった。少し呆気に取られてしまったが、雅巳の言葉には説得力を感じた。違うということは時に不安も生むが、雅巳から言われても不快ではなかった。
「まあ、自分がちょっとずれてるって思ったことがないとはいわないけど」
テレビやネットでは暗い話ばかりだ。政治家なんて胡散臭いし、先生は教科書だけやっていればいいと思っている。
暗い話ばかりでこのまま死んでしまったほうが楽かもな、と思うことはある。あと数年で大人に認められる年齢になるのに、何も楽しいことなんてない。そんな気がしてしまうのに、そんな中でどうやる気を出せばいいのか。
「やっぱり秋穂は面白い」
今の話のどこが面白かったのか。私はぼんやりと雅巳の顔を見る。
雅巳は胡散臭い笑いかたをする。どこかこう、親しみよりも陰がありそうな笑いかたに見えるので、本当に面白くてそんな顔をしているのかと疑う。
彼はこちらに背中を向けて前の方へ歩いていき、一番端の開いた窓際へ立つ。
まじめな話をすれば厭われる。だから馬鹿みたいなことしか話せないし話させない同級生たちとは違って、雅巳はなんの抵抗もなく言う。もちろん絶妙なタイミングを読んだ上で。
秀才は一味違うと回りは言っていたが、私はそうじゃないと思っていた。回りが思う彼へのイメージを、雅巳は壊さないようにしているのではないだろうか。そう思うことがよくあった。
彼にはいつも、ここにいないような感じが漂う。
今だってそうだ。窓際に立つ彼は幻のように見える。
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