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 自動販売機の前にある椅子に座って話していた私に、浩太と別れて俺と付き合ってくれないかと言う。明日の講義は出られないからノートを貸してくれ、とでも言うようなそれに、私は戸惑った。落ち着かず、組んでいた足をもとに戻す。  昴が親しく話しかけてくれていた中に、好意があったことを知っていた。私はそれを恋愛感情だと思わないようにしていた。勘違いだったら馬鹿みたいだし、浩太の件で疲れている自分がいたからだ。  どうせ知っていたんだろう。昴がそういっているように見えた。責めている訳ではない。けれど私に罪悪感を与える。事実、多分そうだろうな、と私は知っていたのだ。  浩太についてどうでもよくなっていた時間が長かったからか、それとも私はまだ誰も本当に好きになったことがないのか。今まで付き合ってきた人を、胸をはって好きだった人だと言えるような人間じゃないことに気づいていた。  それなりに好きで、それに見合うことをしていただけで、私の思いはまだ高校時代で止まってしまっているのではないか。  死んでしまった人は私を慰めてはくれないし、抱きしめてもくれない。なら、生きている人間にそれを求めるしかない。そして私は浩太にそれらを求めるつもりはなかった。けれど昴にそれを求めていいのかもわからなかった。 「あんなやつより、俺を選んでほしい」  胸が苦しくなった。 「今は付き合えなくてもいい。抵抗があるなら、今の状態をもう少し続けたっていい。けど、俺は」  私が黙っているのを戸惑っていると捉えた昴は、缶コーヒーに口をつけ一気に飲み干す。傾ける角度が大きいから喉仏がはっきり見えた。
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