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 ふと、首もとに擦り寄りたくなる。悪くないと言って欲しくなる。秋穂は悪くない。そう心から言ってくれる人はいない。  私の中で昴の存在は大きく育っていた。ただの知り合い程度ではないこともわかっていた。私には彼氏がいると、そう思う横でもう一人の私が嘲笑う。どうせもう好きではないのに、妙な義理なんて役にたたないだろう。  ちゃんと浩太と別れるまで、回りに知られないようにしたい。昴は堂々としても平気だろうといったが、他の大学にも知人が多い歩美のような人間に何かしら知られる可能性も無いとはいえなかった。彼女らは案外、人を見ている。噂のネタになるのは避けたかったし、万が一、浩太に知られて私がなじられる原因を与えるつもりはなかった。  私に好意を向けている相手に言うことじゃない。わかっていても、今まで通り親しい友人として普段は接することをお願いした。彼は人が居なかったらいいだろうと冗談めいて口角をあげる。私はそれに、居なければいいというものじゃないの、と釘をさして返した。  昴は不意に、握手でもするように右手を出した。何の握手なのかと聞いたら、彼は宜しくってことで、と言う。そういうときは握手だろうと。断る理由もないので、彼の差し出した手に自分の手を差し出して握り返す。  私の手は小さく、固さというよりも柔らかいと言われることが多かった。だから固さと大きさのある彼の手は、久々に異性を思い出させる。
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