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「つい最近まで二股だったっていったら、歩美は食いつくだろうね」  何も知らないような顔をして、することはしているのだと面白がる顔がいくつか浮かぶ。自分で言っておきながら傷ついているのか、少し潜められた声に「けど、もう違うだろ」と昴は反論していた。  確かめられているような気がした。視線をそらしたくなるのを堪える。  私は私の酷さを知っている。浩太へ別れ話をしなければならなかったのに、私はその日を先へと延ばした。彼との思い出の中には愛着と嫌な出来事は同時にいつも思い出し、私に絡み付いて身動きを封じてしまう。  その結果、別れ話を相手から言わせたような格好となった。別れ話をメールでされたとき、平気だと思った。私は驚いただけで、ちゃんと返事もしていた。けれど昴の存在を大きく心に残し弱さを見せるほど、案外傷ついていたらしい。  昴が私に向けている親しさの中には、友達への好意とは違うものがあったことを見ないふりをした。自分の傷を何とかしようとしていた。  浩太との浮気を知った上で、私は昴と曖昧な関係を続けた。それは彼氏がいる身で他の男と恋愛感情が混じり親しくしているなら、浮気としかいいようがないとわかっている。不誠実なことを最初にしていたのは浩太の方だから私は悪くない、とはならないことも。  私は弱かった。  条件をつけながら私は昴の手をとったし、昴もそれでいいとした。握手したあの日から、浮気も二股もされたくないし、したくないと思っていた私が、そこに足を突っ込んだ。
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