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 後ろめたさが浮かぶ。自分から目立つようなことをしないと言っておきながら、時折堪らなく昴の温度を知りたくなる。そして我に返って、浩太と同じことをしているのだと思うと、誠実じゃないと苦しくなる。  それでも、曖昧なものではなく、確かなものであるとわかっていることに心地のよさを覚える。誰かに思われることを感じるのは久々だった。  知られないようにするという前提がある限り、昴からは堂々とは出来ないもどかしさを感じた。それを昴が言わないでいるのは、私のためだ。昴は焦るような行動を見せなかった。  ただ、そこにいる。少しずつ距離を縮めにくるそれは、嫌ではなかった。  秘密の関係というのは、新鮮だった。  長くは味わいたくない、秘密を抱えるという苦いけど甘い思い。足を突っ込むどころか、体が浸かっていく感覚だった。  不誠実な関係を隠すのはいやらしい。浩太もこんなやましい思いといやらしさを知ったのかと思うと、一瞬だけ浮気を理解した気にもなる。けれど、一瞬だ。私はあるだろうなと思っても認めることはない。  不誠実な関係を密かに続けていた中、浩太から別れをメールで告げられ、私は冷静に返事をした。浩太のとの関係も、昴との不誠実な関係も終わってしまったことになる。  堂々と昴と付き合うというところまで行くには、何かが引っ掛かっている。浩太と別れたというのに、未だ私と昴の距離は近いようで遠い。
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