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 それだけ言葉が出てくるなら、私が欲しい言葉の一つや二つくらい出てきてもいいだろうに。  元気が有り余って落ち着かない彼自身が、血色の良さがわかる赤色をした薄い唇に現れていた。薄い唇は誉めたり機嫌がいいと横に引き伸ばされ笑みとなり、否定する言葉を返せば不満だというように唇は中央に寄って少し上向く。表情と同じでわかりやすい反応をする。  彼の唇は触っても私ほど柔らかくない。よく動く薄い唇は細く長身というやや頼りない体に上手く一致していたが、私の唇とぴったりはまることはなかった。  唇から出てくる言葉は最初の頃は面白かったが、ただ楽しければいいという浅はかな面白さが大半になっていく。それだけでは飽きてくるし、笑えないことに彼はいつ気づくのだろう。  生み出す感触も単一でつまらないと気づくまでそう時間はかからなかった。キスとしては急ぎすぎるそれは、私に物足りなさを与える。私からしかけても、そして伝えてもどうしようもないというなら、浩太では私に欲しがらせることも満足させることも出来ない。そのくせ彼は私から何かしらを掠めるように奪っていく。  新しい何かが欲しかった。  それは出来れば、昴から奪いたい。
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