9

3/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
 テストの点だけが全てではなく積み重ねが大事だ、と言ったのは数学の先生だったか。  机に何個か置いていたチョコレートに「これ、貰ってもいい」と言ったのは、てっきり出ていったと思っていた歩美だった。歩美は講義室の真ん中辺りにいることが多いが、こうして残っているのは珍しい。大体歩美と同じような女の子たちとお喋りしながら出ていくのに。  包み紙を剥がして、彼女は「そんなに真面目にやらなくてもいいのに」と言いながら、チョコレートを口の中で転がすようにしているようだった。甘い匂いはチョコレートと、香水だとわかる。  机を挟んだ向こうに立つ歩美に、座る私は見下ろされるような形となっていた。  秋を感じさせるような深い赤色のスカートに、リボンの形をしたベルトをしている。歩美の格好は毎日がデートに行くような格好なのに対して、私は無難なジーンズとシャツ、その上にカーディガンを羽織っている。  課題は出さないと色々と響くよといった私に、歩美はまだチョコレートが入った口のままでいう。 「デートや合コンが急に入っても、秋穂ならこっちを優先しそうだよね」 「私は先に入ってた予定を優先するけど」 「だめだめ。大事なのは講義だけじゃない。折角の女子大生なんだよ。デートを優先させたって一回や二回平気だって」  先に入っている予定を破ってまでデートも合コンも強要してくるような奴は嫌だが、歩美はそうでもないらしい。だから何度も追試を受けることになるんじゃないの、と嘲笑ってやりたくなる。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!