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「そんなことを考えていたのか」  寒いだろうと肩にかけられた毛布も温かいが、彼の体温のほうが温かいだろうにと思いながら私は「真面目は顔をして課題をやりながら」と昴に言われる。  何も興味ない、縁がないという顔をして、実は昴の柔らかい唇と優しい手のことを考えているだなんて、誰がわかるだろう。  彼の部屋は意外と殺風景だった。教科書類と、パソコンやプリンターの線が絡まりながら部屋の端に伸びていた。  買ったクリスマス用の飾りがついたケーキを置いて、私たちは映画を見た。どうせなら甘いやつをといって借りてきたが、後半はあまり記憶にない。暗い画面と酒が混ざりあい、英語を音楽のように聞いたが、ちらつく明るさと映像が邪魔になった昴が消してしまった。  昴の唇や手が体に触れてくることは、私を戸惑わせる。互いに少し緊張しているのがわかった。知らない部分があることの怖さがあった。  うなじに回された手の存在を強く感じると、征服されていくような気を起こさせる。けれど支配しているわけではない。互いに踏み込んで、手探りでもその感覚や行為から伝えられない何かを出しあっているようだった。  前の記憶に上書きされて、私の体は更新されていく。古い私を脱ぎ捨てて、新しい私を彼が与えている、そんな感覚を味わった。
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