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私はノートを写す作業も忘れて、外を見ている雅巳と話す。
「空に身を投げるっていうフレーズを、メンバーの彼は気に入っていて歌にもしていたから、ファンの中では有名だったんだ」
「それでファンが飛び降り自殺したって? 」
私はあまりグループのことを知らない。彼らは音楽番組によく出るような感じではなかった。いわゆる派手なメイクや格好をして歌うヴィジュアル系バンドだ。私も代表曲のようなものをちらっと聞いたことがあるくらいで、そんなに詳しくない。
「そういわれているみたいだけど、事実はわからないままだ。本人たちは死んでいるから」
雅巳に好きだったのか聞いてみる。彼は「どうだろう」とよくわからない返し方をしただけで、それ以上はいわなかった。
けれど、彼も空に身を投げるというフレーズが好きではないかと思った。
青々とした空で、高い建物の屋上に立つ彼が、両手を広げる。そんなイメージが浮かぶほど似合いすぎていた。二重窓を開けて外を見ている彼が突然、さよならとでも言うのではないかと不安になる。
「秋穂、手が止まってる」
「このプリントとルーズリーフ、くれるんじゃないの」
「俺のはやるけど、そっちのピンクのノートは違うんだろ」
わざわざコピーしてくれたものを見て、職員室までいったんだろうなとわかった。いつもなら個人で使いたいといえば、何のコピーをとるんだとか何枚だとかうるさく言われることも珍しくない。雅巳はどうせ復習用にちょっと使うので、とかいって頼んだのだろう。
先生は成績優秀者には甘い。おかげで私は雅巳のノートをそのままゲットし、テストの参考に出来る。
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