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 少し前に浩太からメールが来ていたことだ。私は動揺した。アドレスは消していなかったが、あとのメールはあのお別れメールも含めて全て消していた。  サイトや店の会員向けのメールマガジンが並ぶメインフォルダに、浩太からのメールが届いていた。彼はもう大勢いる中の一人でしかない。  内容は元気か、というそんなものから、俺やっぱり秋穂が忘れられないというもので笑いそうになる。  昴とちゃんと向き合いたかったのを邪魔していたのは思い出だ。あの案外薄情な薄い唇は言葉もキスもくれていたことを、私は散々思い出した。昴を傷つけているとわかっていて、彼に秘密という関係を強いていた。  けれど、今は違う。  浩太は別れることをメールで寄越した。あの頃もう私は好きじゃないというのに恋人同士だったのを考えると、浩太に別れ話を告げさせたと言ったっていい。私は狡かった。けれど、浩太だってそうでしょう。そんな反抗心も存在した。  浩太との思い出は保存されて、その上に新たな存在が出来ている。そこに新たに浩太が入り込むスペースはない。  クリスマスに向けて、私は昴にプレゼントするものを買うために町に出ていた。浩太からのメールはその時に来ていて、寒さに負けて入ったカフェで返事をした。残していたアドレスもその時に消してしまった。
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