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悲しい、というのはなかった。むしろすっきりした思いだった。
メールを返したあと、私は昴に選んだプレゼントのことを考える。私は万年筆を選んだのだが、真面目に勉強する昴が持っていたら絵になるだろうなと思ったからだといったら、なんて言うだろう。
そんな昴のことで浩太のことはすぐに消えていったのだ。
「そうそう。忘れてたけど」
カップをテーブルに置いて、部屋の隅に置いてある私の鞄に手を伸ばす。四つん這いになった私の尻を触る昴を無視する。
折角買ったのに渡すのを忘れる訳にはいかない。
「メリークリスマスってことで。でも、あまり期待しないで。貧乏学生なんだから」
人にプレゼントをあまりあげた経験がない私は、上手い一言を考えられない。だが、受け取った昴は使いこなせるようにもっと勉強すると思っていたのと似た言葉を返してきた。
真面目だ、と私から言われた昴は「それを決めるのは回りだからな」と、面白い返事をしてくる。
成る程そうかもしれない、と笑いながらふと、そういう言い方を好んでしていた雅巳が思い出された。
彼の繊細さや危うさを多くが見向きもしなかった。あの藍でさえ、幼馴染みとして過ごしてきたはずなのに、表の顔をした雅巳しか知らなかった。多くは彼の外見と、頭の良さばかりに注目して、勝手に決めつけていく。雅巳が苦しんでいることにも気がつかずに。
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