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欲しい言葉があっても、相手がそれを言ってくれなくてもいい。ただ今が静かに続けばいい。高校生だったあの頃の私は、雅巳にそう思っていた。誰よりも強く雅巳の中に残りたかった。
同級生たちとは違う、彼が話す毒を含んで呪われるような言葉が好きだった。彼の危うさがある陰の部分が私を引き寄せた。
どうにかしたい。そんな思いを抱かせたのに、彼は何の責任も取らずに亡くなった。私の思いは行き場を失い、さ迷った。
あれが、私の中での恋だったのを強く思い出す。
私はどうしようもなかったのだ。雅巳をいつまで好きでいればいいのかわからなかった。傷ついていた私は、高校時代に友達だった女の子らが彼の死を話の種にしたあのとき、私の手で思いを殺すしかなかった。
特別でも特異でも何でもない私は、人並みのことしか出来ないとわかったのだ。
私はみんなと同じように誰かと付き合って、別れた。覚えてはいるが、雅巳に比べると薄っぺらい。ただ過ぎていっただけだ。
私からあげたいし私も欲しいという欲求も、思い出も、私の唇や体のあちこちに残っている。言葉や行動として出ていくし、刻まれていく。そして、たまに思い出す。
昴と言葉を交わして、キスをして、笑って時には怒るし不満も出る。そんな思い出が私の体に詰まっていく。
歩美が言っていた通り、好きだった所だけ残して別れてしまうなら、寂しい。
私が雅巳と過ごしたあの頃や、浩太と過ごした日々を、彼の唇や手から思い出したように、昴との思い出もそうやって思い出すようになるのかもしれない。
ただ、今は。
彼の荒れた唇が、私に独特な感触を与えてくれることを黙って感じていた。
了
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