帰ってきて

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帰ってきて

「ただいま」  ボロアパートの一階にある自宅のドアを開けて、返事を期待した言葉を放つ。 「......あれ?」  いつもならば、声が返ってくるのに、今日はやけに静かな部屋に虚しく自分の声が響くだけ。冷たい風が頬をかすめる。  つい数日前、僕のもとに不思議な訪問者が来たのだ。訪問者は、小柄で薄汚れた体をしており、目は空腹を訴えていた。僕は貧乏で、訪問者に食事をあげる余裕なんて無いのだが、さすがに可愛そうに思えたので、とりあえず僕の部屋に入れた。それから、冷蔵庫にある食べられそうな品をいくつか差し出すと、美味しそうに食べてくれたのだ。  それからというもの、毎日のように僕の家を訪れては、食事を与えた。家族のことを聞くのはタブーのような気がして、何も質問したことはない。そして、いつの日からか、僕の家に寝泊まりするようになっていた。  経済的な負担が大きくなったけど、仕草の一つ一つが僕を癒してくれたため、広い心で家に滞在させたのだ。  気がつけば僕の帰宅から1時間近く経っていた。たまに、家から出て、外を散歩して返ってくることがあるのだが、今日はやけに遅い。  いつのまにか訪問者から同居者となって、それ相応に愛情を持って接していたので、とても心配なのである。こんな寒い日であるから、余計に心配だ。  いつ帰ってきてもいいように、少しドアを開けておいたのだが、部屋の中がすぐに冷えて、仕方なくドアを閉めようとした時、やっと帰ってきた。 「みゃー」 「おかえり」  子猫が震えながら家へ入って、こたつの中に潜っていった。
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