中一、五月

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 沙織はそこらのアイドルにいそうな、派手な顔立ちで、いわゆる可愛い子だった。顔が整ってるし、スタイルもいい。二重の線がはっきりしていて、睫毛が長くて、肌が白くて柔らかそう。足が長くて、スカートを折らなくても、太もものちょうどいい位置でプリーツの裾が終わる。地毛の茶髪は光に当たると金色に見えることもあって、最初はハーフで、フランス語を喋れそうに見えた。お姉さんが高校一年のクラスにいて、そのさらに上のお姉さんもうちの卒業生。三姉妹は史上初、と担任の佐藤先生が自己紹介のときに付け加えていた。黙ってればかわいいのにね。沙織はその言葉を勲章みたいに喜ぶ。そうでしょそうでしょ。でも黙ってなくてもあたしは可愛いし、黙ったらさらに可愛いんだよ。ヨリちんとわたしはそのこなれた返事に感心したけど、ノダカナは鼻にさわると言った。鼻につく、の間違いだと誰も教えなかった。  門をくぐって玄関ホールに入る。傘をしまったノダカナがわたしを待っていた。ヨリちんはもういない。廊下の奥にある教室に向って、やっぱりカエル走りを続けている。すれ違った二組の先生が笑いながら内海さん、やめなさいと言うのが聞こえた。笑ったりしたら、ヨリちんは絶対やめないのに。 「次、英語だっけ」 「代数だよ」 「ヤマセンかあ……今日当たるかなあ」 「みいちゃん、あの位置でマンガ読むのやめたほうがいいよマジで。丸見えだよ」 「読んでないよ、最近は。でもせっかく一番後ろなのに」 「だからよく見えるんじゃん。パパが言ってたけど、教壇から生徒の行動って丸見えなんだから」  ノダカナと話すようになって、人前でパパとかママとか、中学生でも言っていいんだと思ってびっくりした。みんな家ではそう呼んでても、中学にあがったら人前でそんな呼び方しないとお姉ちゃんが言っていたから、そうなんだと思いこんでいた。ノダカナのパパは大学の先生で、近頃は学生が勉強しないと言って困っている。実際に困っているのを見たわけじゃないけど、ノダカナが繰り返し繰り返しその話をするから、たぶんウソじゃないだろう。
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